’09.1.1

明けましておめでとうございます。元旦恒例の「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」、70カ国以上で衛星中継されたそうですが、ご覧になられましたでしょうか。洗練の極致ともいえる演奏の素晴らしさはもちろん、団員の方々のにこやかな演奏ぶりで毎年楽しみにしていますが、今回の指揮者ダニエル・バレンボイム氏の選曲や演出には本当に脱帽しました。

歿後200年を迎えるハイドンの「告別交響曲」。それもあの第4楽章だけをプログラムの最後に持ってくるという大胆さ。全楽章だったら、ヨハン・シュトラウス父子のワルツやポルカを中心とするニューイヤーコンサートの雰囲気が損なわれていたでしょう。

アンコール曲の「美しき青きドナウ」。これも恒例ですが、演奏前の挨拶で、バレンボイム氏は「世界が平和になるように」という旨のメッセージを客席に向かって語られました。氏がイスラエル国籍であるのは知られていますが、そのイスラエルで今、パレスチナ自治区への攻撃が行われています。氏はイスラエル人とパレスチナ人の混成オーケストラを結成するなど、双方の融和を図る活動も続けているそうです。「美しき青きドナウ」は、シュトラウスが、プロシア軍との戦いに敗れて悲しみと不安に満ちたウィーンの街の中、いつもと変わらず、とうとうと流れ続けるドナウ河にウィーンの心を見出して書いたといわれる曲です。この曲に氏が特別な想いを抱いたであろうことが伝わってきました。演奏は本当に魂がこもり、かつ限りなく優雅でした。

自作ではなく他人(作曲家)の曲に演奏者の個人的な想いを重ねることは、クラシックの場合、時に邪道といわれます。「作曲者の考えが第一」だからです。実際にそれを嫌う作曲家もいます。バレンボイム氏のメッセージ発言も、もしかしたら勇気のいることだったかもしれません。でも本当に才能ある演奏家なら、作品と重ねて感じたのがたとえプライベートなことだったとしても、美に昇華できるものだと思います。今日のニューイヤーコンサートは、感動と同時に、いろいろなことを考えさせられました。

 

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