’09.4.1

レコーディング2日目。今日は「アラベスク 第1番/月の光(ドビュッシー)」/「舟歌(ショパン)」「亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)」「雨だれの前奏曲(ショパン)」の順で5曲です。

昨日と同様、心身ともに平静に保つように気をつけましたが、2曲目の「月の光」は、心身ともに馴染んでいると思っていた曲なのに、なかなか集中し切れません。でもここで「どうしよう」などと焦らず、「今の感覚を大切に」と思い、ひたすら音に耳を傾けました。

疲れてくると、ふと自分の中から「もうこの演奏でいいよ・・・」と悪魔のささやきが・・・。でも絶対に妥協したくありません。判断力は昨日より落ちているので、こまめに休憩を取りながら、納得のいくまで録音を続けました。

「舟歌」の後に昼食休憩(と言っても確か14時過ぎ)でしたが、この曲はやはりピアノの「鳴り」がもっと必要な曲。プロデューサーさんの提案で休憩後にもう一度録りましたが、この時、これまで準備してきた中で一番生き生きと演奏出来、「最高」「(CDの)タイトルは『舟歌』にしてもいいかも」と言って頂けました。自分でも何かに達したような感があり、嬉しかったです。でも同時に、この時の感覚がまだ漠然としたものであること、これを本当にモノにするには、もっと何か精神的な柱が出来ていなければ、と直感しました。更に修行が必要ですね。

18時過ぎに全11曲の録音が終わりました。ホッとした途端、プロデューサーさんから「お疲れ様でしたー!。で、あと(閉館時間まで)3時間もあるんですが・・・・」 何? 「『舟歌』がとても良かったので、この感じで『ラ・カンパネラ』をもう一回弾いてみませんか?」とのお言葉。 「ええーーーっ!?」

「ラ・カンパネラ」を録音したのは昨日のお昼頃。録音後に昼食休憩を取り、昼寝までして、一旦気持ちの区切りを付けてしまっています・・・・。 今の方がピアノの鳴りが良いのは確かですが、もう私には心身ともに、この曲を集中して弾く自信が全くありませんでした。

 

でもハナから諦めて帰るのももったいないような・・・。「10分間準備させて下さい」とお願いし、気持ちの切り替え →水分補給 →ストレッチ →曲全体のチェックをして再録音。集中はできたものの判断力がもう完全に落ちているようで、プレイバック(今録ったもの)を聴いても、どのテイクを採用するか、決められません。プロデューサーさん側は「今日の方を使う」と仰っていましたが、編集の日に改めて聴き比べてみた方が良さそうです・・・。

 

そんなこんなで19時前頃に全て終わりました。プロデューサーさんが記念の写真を撮って下さいましたが、私は髪を直すのが精一杯で、化粧直しをする気力もありませんでした・・・。 でも「これまで頑張ってこれて良かったな」という気持ちは十分感じました。ひたすら自分の感覚に耳を澄ませた日々を振り返り、無事に録音出来たことに感謝しました。 あとはいつもの身体のケア(ストレッチ、消炎剤、プロテインの補給など)を念入りにやりました。

プロデューサーさん、調律師さんはじめスタッフの皆様にお礼のご挨拶をし、この2日間だけでなくこれまで練習に来た時からお世話になったピアノにもお礼を言って、会場を後にしました。

帰りの車中では「聴いて下さる方に喜んで頂けるだろうか・・・」と、また不安。でも弾き終わったばかりのこの頭であれこれ考えてもいけません。今はゆっくり身体と気持ちを休めましょう。お疲れ様でした!

 

’09.3.31

2ndアルバムのレコーディングに行ってきました。会場は神奈川県相模原市の「相模湖交流センター」です。今回は1枚目で入れられなかったドビュッシーの作品を中心に11曲。日程は今日・明日の2日間で、1日目の今日は、「沈める寺(ドビュッシー)」/「ラ・カンパネラ(リスト)」/「鐘の音(グリーグ)」/「鐘の谷(ラヴェル)」/「水のたわむれ(ラヴェル)」/「水の反映(ドビュッシー)」の順で、6曲を録音しました。

前作「花の歌〜ピアノ名小品集」では初めてのレコーディングということもあり、2日間のスケジュールは全てプロデューサーさんが決めて下さっていましたが、今回は会場入りの時間以外、演奏順も自分で決めることになりました。「1日目で半分以上、6曲終わると後が楽だな」「『ラ・カンパネラ』と『舟歌』」の後は、昼食など長めの休憩をとろう」など、色々考えながら予定を立てました。ドビュッシーの「沈める寺」は、私にとってとても曲の世界に入りやすい曲。この曲を最初にもってきました。

前回は、ステージ上の見たこともないマイクの数々や、広い楽屋に埋め尽くされたたくさんの録音機材にも一々驚いていましたが、今回は大体の様子、進行が分かっているだけでも救いでした。経験とは有難いものです。

まずは今日が予定通りに終わって一安心です。レコーディングで一番困るのは、OKテイクが録れなくてホールの閉館時間に間に合わないこと。コンサートとはまた違う緊張感があるためか、普段は問題なく弾ける箇所が突然弾けなくなる、俗に言う「はまる」状態になってしまうこともあるそうです。ついつい最悪の事態を考えてしまう私・・・。「まだ起こってもいないことをあれこれ心配するのはやめよう! 音楽に集中!」と決心していたものの、準備期間中は、どこからともなく襲ってくる不安と戦いながらの毎日でした。

でも決心しただけのことはありました。最も気がかりだったのは身体の疲労具合、特に右腕の状態でしたが、「スタッフに気を遣いすぎず、自分のペースで」と自分に言い聞かせ、弾く前後のストレッチも十分出来ました。何か不測の事態が起こっても心の平静を保っていられるような、余裕がありました。この余裕がないと、些細なミスでパニックになり、それこそ「はまって」しまっていたかもしれません。1曲毎に休憩を入れますが、「水のたわむれ」の後に「水のキラキラ音が頭に残っているうちに次の『水の反映』も弾きたい」と感じ、続けて録音しました。自分の状態がつかめていたようです。

ピアノ調律の水島浩喜さん(B-tech Japan)は録音前の調律から録音終了までずっと、2日間とも立ち会って下さっています。ピアノ(ベーゼンドルファー・モデル275(92鍵))はこれまで練習に来ていた時とは比較にならないほど敏感になっていて、録音中に何度も「もっと何か出来るはず・・・」と思いました。また、午前と午後ではピアノの鳴りが違い、午後の方がピアノ全体が鳴ってくるようなので、「沈める寺」は帰る前にもう一度録音(リテイク)しました。

まだ明日がありますが、まずは一日目を終えた自分に「お疲れ様!」 今日は宿泊先のホテル(帰宅出来ない距離ではなかったものの、レコーディングが長引いてしまった時のために、近くの宿を取っておいたのです)で、アルコールはお預けですが美味しい夕食を頂いて、早めに休みましょう。明日の音出しは今日より早く、午前10時です。目覚ましのセットも忘れずに・・・。

 

’09.3.21

レコーディングの会場「相模湖交流センター」に、今日も個人で練習に行ってきました。(1月の日記で、相模湖交流センター設置のピアノ機種の表記に誤りがありました。ベーゼンドルファー社の「モデル275(92鍵)」です。お詫びして訂正させていただきます。)

朝から行きましたが、午後からは「ディスククラシカジャパン」のディレクターさんも立ち会って下さり、録音予定曲全曲のチェックをしました。

1月に行った時には「自分をどれだけ解放出来るかが課題」と感じましたが、以前よりも作品を俯瞰(ふかん)出来るようになってきました。この2ヶ月、自分の感性を研ぎ澄ませるようにして過ごしてきました。というより、これまで頭で考えてばかりで、感覚が後回しになっていたのかもしれません。

今日もビデオ録画をし、家で聴いて確認しましたが、午後は休憩を取らずに全曲通してしまったせいか、後半の曲には疲れが出てしまっていました。立ち会って下さったディレクターさんに気を遣い、自分の身体を認識せずに弾き続けてしまったのがいけません。

「シベリウス ピアノアルバム」(全音楽譜出版社)という楽譜に、ピアニストの舘野泉さんが解説文を書いていらっしゃいましたが、その中にとても惹きつけられる文章がありました。  『(前略)・・・細かい演奏上の解釈を書いたが、こういう方法もあると思って読んで頂き、次の日には忘れて頂くこと、何よりもあなた自身の感覚を信じることが大事だと思う。私は、楽譜には指使い・ペダルを書くのが精々。言葉にして書いてしまうと、考えがどうしてもそこにしばりつけられてしまうからだ。人間の心の海は思ったより広いもので、その海に向かって自由な立場で心を開き、すくいとれるだけのものを得たいと思う。こういうことは昔の人はよく知っていて、初心とか無心とか言ったのだろう。・・・(後略)』

自分を開放する手段が分からず、内面にあるものをつかめずにいましたが、この文章を読んで、何かが見えてきたように思います。レコーディング当日まで、気持ちを楽にして、心身ともに良い状態で臨みたいと思います。

Indexのページを新しいウインドウで開く>