‘09.5.24

「野島稔・よこすかピアノコンクール審査委員による ベートーヴェン・ピアノソナタ」コンサートを聴いてきました。会場は、よこすか芸術劇場大ホールです。

「よこすかピアノコンクール」は審査委員の顔ぶれが、委員長の野島稔さんはじめ神谷郁代さん.田部京子さん.ヴァディム・サハロフさん.野平一郎さん.迫昭嘉さんと、世界的な現役の演奏家揃い! 今日はこの6人のピアニストが、コンクール第2次予選課題曲の「ベートーヴェン・ピアノソナタ」を1曲ずつ披露するという、とても贅沢なコンサートです。曲目も作曲順・演奏順に「悲愴」「月光」「テンペスト」「ワルトシュタイン」「熱情」そして最後のソナタ「No.32」とこれまた名曲揃いです。あいにくの雨、また新型インフルエンザも心配される中でしたが、この豪華なコンサートにたくさんのお客様がいらしていました。

会場に着くと「ヴァディム・サハロフさんが体調不良で出演できない」との張り紙が。えーっ、残念!! サハロフさんが演奏予定だった「テンペスト」は、迫昭嘉さんが演奏されると書かれていました。迫さんは「ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲チクルス」を成功され、そのライブCDも絶賛されていらっしゃいます。今日は「テンペスト」と「熱情」の2曲を聴けるのですね。

2回の休憩を挟み、3時間に渡るコンサートでしたが、5人のピアニストが各曲と真正面から向き合う演奏を聴けた、素晴らしい会でした。

「審査委員による」と銘打っていますから、このコンクールを受けたい人、過去に受けた人も聴いているかもしれません。審査員が出場者の前で演奏するのは、普通のコンサートよりも更にプレッシャーがかかるだろうと想像します。でも、どなたの演奏にも全く「逃げ」を感じませんでした。

「自分の音楽を信じ、迷いや不安を振り払って、ひたすら曲に向かう」。これが出来なければ音楽家は自分の作品・演奏を披露して行けません。名ピアニスト達の、まさに「迫真のライブ」。迷ってばかりの自分を反省すると同時に、「自分を信じろ」と背中を押してもらったように感じた、とても嬉しいコンサートでした。

 

’09.5.9/5.11

6月リリース予定の2ndアルバム、編集に立ち会ってきました。レコーディングで演奏して終わり、ということはなく、編集やジャケット写真選び等にも関わります。

今回のエンジニア・池田彰さんは、レコーディングで録った音をパソコンに入れない主義でいらっしゃいます。「パソコンに入れると、一回コピーすることになり、音が劣化する」とのこと。演奏家やプロデューサーでさえなかなか気づかないような、わずかな響きの違い。まさに「職人のこだわり」です。CDに収める曲順、曲間の時間(6秒など)も全て決めてから1曲1曲マスタリングしていきます。

今回の収録曲は11曲。レコーディングでは1曲あたり少なくとも2回は通して弾いています。それらを皆で全て聴き直し、どのテイクを使うか協議していきます。パソコンに入れた「データ」を操作するのと違い、一度マスタリングが済んだ曲はもう入れ替えが出来ません。納得いくまで聴き直します。「前作では編集立会いは1日だったのに、今回はなぜ2日?」とのナゾは解けましたが、精神的にも体力の面でも、かなりの集中を要しました。

レコーディングから1か月以上経っているので、自分の演奏を少し冷静に聴けているように思います。現在の師・井上二葉先生も「本番翌日など直後に聴くと、弾いた実感がまだ生々しく、『ここはこう弾いたはず』等の思い込みもあるので、日を置いてから聴いたほうが良い」と仰っていました。

ただ、日が経てば自分も少しは成長しています。冷静に聴ける分「ここはもっとこうすれば良かった!」などと思い始めるとますます迷ってしまうので要注意です。レコーディングの時点で自分の全てを出し切ったことに変わりはありません。気持ちを落ちつけて、心地よく聴けるかどうかに集中しました。こういうことも、本当はもっと経験が必要なのですね。

2日かかった編集が終わってホッとしたものの、私はまだ大きな勘違いをしていました。演奏したのは私。プロデューサーさんやエンジニアさん達スタッフは、あたかも、その演奏を批評する先生・評論家であるかのように思えてしまい、気持ちを平静に保つようにしていたとはいえ、編集の間ずっと「針のむしろ」状態でいたのです。

あとで伺ったのですが、「プロデューサー達スタッフ側も『良いCDができた』と思う気持ちと、制作側である以上逃れられない不安との隣り合わせ。自分の制作したCDは、そうすぐには冷静に聴けない。演奏がアーティストの産む『子』としたら、CDにするスタッフはお産婆さんのようなもの。」とのこと。私は本当に自分のことしか考えていませんでした。スタッフさん達の心情にも気づかず「針のむしろ」だなんて、情けなくて仕方ありません。

先日、ある作曲家の方のお話を伺う機会がありましたが、ご自身のある作品に対して「作曲から8年経って、ようやく落ち着いて話せるようになったかな・・・」と仰っていました。「制作側である以上逃れられない不安」は皆にあることを、今更ながらに知りました。でももし、不安や後悔の連鎖に飲み込まれるだけでいたら、成長出来ません。

「もっと自分を認め、もっと自分の心に耳を澄ませていこう」。また新たな課題が見えてきました。

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