‘09.7.20

宮川久美さんのピアノリサイタルを聴いてきました。宮川さんは横須賀市のご出身で、現在はカナダを中心に活躍中です。今日は「ベートーヴェン:ピアノソナタ全曲演奏会」の第3回目。第8番「悲愴」・第12番「葬送行進曲付き」・第30番の3曲。会場は、横須賀市の「カスヤの森現代美術館」(JR衣笠駅から徒歩15分くらい)。竹林に囲まれた素適な空間です。

「ラモー」という銘柄のグランドピアノがあり、コンサートは展示室にピアノを置いて行われます。2000年にピアニスト・久野祐子さんと連弾リサイタルをさせていただいたことがありますし、別のコンサートを聴きに行ったこともあるのですが、時期によって展示されている作品が違うため、空間の雰囲気がそのたびに違うのです。それも素適ですね。

約50席と、まるで演奏家が自宅に来てくれているかのような(?)とってもアットホームなひと時。曲ごとの宮川さんのお話も、単なる曲の説明にとどまらず、「私はこう思う・こう感じる」と演奏家の「生の意見」を伝えてくれました。

宮川さんの演奏解釈の深さ、ダイナミックな表現はもうおなじみですが、私は宮川さんのピアノを聴くと元気が出ます。多少へこんでいる時でも「また頑張ろう」と思えるのです。演奏そのもののレベルの高さはもちろんですが、前向きで、いつも仲間を大切にされるお人柄が、音にも表れているのですね。

 

終演時に主催の(株)サウンドウェーブの社長・斉藤雅顕さんが、私の横須賀でのリサイタル(9月27日・ヨコスカベイサイドポケット)、それに新CD「ドビュッシー:沈める寺」の宣伝までして下さり、恐縮してしまいました。 普通にファンの一人として聴きに来ただけなのになぁ・・・。リサイタル当日の調律をお願いしてはいるものの、申し訳なかったです・・・。

 

斉藤さん曰く、「ピアニストが他のピアニストのコンサートを聴きに行くことは、実はあまりない。有名な人のコンサートには行くけれども。反感もあるのだろう・・・。」 残念ですが、これは事実だと思います。

 

「ショパンコンクール」や「チャイコフスキーコンクール」など有名コンクールの優勝・入賞者は高嶺の花だから、芸能人を見るような気持ちでいられる。でも他のアーティストに対しては反感を感じる。音楽の世界も競争の一面がありますから、確かに同業者はライバルです。同業者が「出世」すれば、心穏やかではいられない・・・。人としては、ごく普通の心理かもしれません。

 

でも反感を持っているより、実際に自分の耳で聴いて、良いか悪いか、好きか嫌いか判断すれば良いのではないでしょうか。良いもの・好きなものはどんどん聴いて取り入れ、自分の栄養や癒しにする。そのほうが、精神的にもずっと良いのでは?

 

私はとにかくライブを聴くのが好きですし、行けるものは時間とお金が許す限り聴きに行きたい。勉強のためでもありますが、生演奏にはその人の「本心」が出るみたいで、やはり面白いのです。 「面白そうなコンサートがあるか?」「同級生や知人の出るコンサートがあるかもしれない」と、情報誌も広告以外の小さな文字情報までチェック。せっかく見つけても、その日は自分の都合が付かない日・・・そういう時はがっかりですが・・・。

 

マイナスな感情で自分の世界を狭めるのは、アーティストとして実にもったいないこと。 別情報ですが、ピアノの先生でさえ、超有名演奏家以外、ろくにコンサートに行かない方も多いそうです。これも残念なことです。

 

 

‘09.7.18

佐渡裕プロデュースオペラ「カルメン」を観てきました。会場は東京文化会館大ホールです。カルメン役の林美智子さんはテレビで、ドン・ホセ役の佐野成宏さんはリサイタルで聴いてその歌声に感動し、「主役がこのお二人なら、ぜひ聴きたい!」と思っていました。オペラを観るのは昨年2月の二期会「ワルキューレ」以来。予定が空けられてやっと行けることになり、嬉しかったです。

 

お二人はもちろん、歌手陣の素晴らしさに「来られて良かった」と心底思いました。オーケストラ(東京フィルハーモニー管弦楽団)も生き生きとしていて、楽しめました。以前、雑な伴奏にがっかりしたことがあるので、指揮者とオーケストラも気になります。

オペラの場合、オーケストラは舞台でなくピット(舞台の前・客席よりやや低いスペース)で演奏しますので、どちらかというと個々の音が聴こえ、反響板のある舞台でのコンサートに比べて「オーケストラ全体の響き」になりにくい感じがします。でもそれも、生でオペラを聴く面白さかもしれません。

 

演出(J=ルイ・マルティノーティ氏)も緻密な時代考証、リアリティが見事でした。オペラの演出は重要で、奇異をてらっただけのようなものにはうんざりしてしまい、雰囲気を楽しむことができません。なので、どんな演出かも事前にチェックします。

 

この公演は、フラスキータ役の吉村美樹さん(二期会)からチラシをいただきました。情報誌は毎月チェックしていますが、実際のチラシがあると、その公演のアピールポイントや全ての曲目などがよく分かり、とても助かります。東京文化会館入り口には広いチラシラックがあり、その量は圧巻! 今日も興味のあるチラシを全部持って帰りました。ここに来る時はA4サイズの入るバッグが必携です。

 

 

‘09.7.1

2ndアルバム「ドビュッシー:沈める寺」。今日発売になりました。既に6月のリサイタルや「逗子童謡の会」で先行販売させていただき、お褒めの言葉も頂戴しましたが、「自分の演奏が世に出る責任・重さ」、そして「ありがたさ」を決して忘れてはいけないと感じています。「慣れ」が一番怖いのです。 

何年か前、ピアニストの小山実稚恵さんが、ラフマニノフ作品のCDリリースにあたってのインタビューで「昔のアルバムはもう売らないで下さい、とお願いしたいくらい・・」と仰っていました。ご謙遜とは思いますが、出したCDがお客様の手元に残ること、商品として存在し続けることは、真摯に研鑽を続けるアーティストにとって、一種の恐怖でもあります。「もうやり直せないもの」だからです。 

1stアルバム「花の歌〜ピアノ名小品集」のリリースから4年近く経ちましたが、リリース独特の緊張感は変わりません。 でもこの緊張感があるからこそ、より自分の音楽を問い直せるように感じます。レコーディングの長丁場も頑張れます。今回も肉体的・精神的に、今の自分の限界を試されているように感じることがあります。それをゆっくりでも良いから一つ一つ乗り越えることが、結果として自分の力になることを信じていきたいです。

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