’10.5.1
〔ディーナ・ヨッフェさんのリサイタル〕

ショパン・コンクール第2位で、愛知県立芸術大学の客員教授も務められた、ディーナ・ヨッフェさんのリサイタルを聴いてきました。

4/29から5/2の4日間連続のリサイタルツアー!(しかも2種類のプログラム)。
今日は藤沢リラホールで、前半がバッハ「パルティータNo.2」とベートーヴェン「月光ソナタ」。後半はショパンで、「夜想曲No.15・No.4 」「マズルカOP.59(3曲)」「バラードNo.4」でした。

確かな構成力、豊かで温かみのある音色も素適でしたが、演奏中の微笑んでいらっしゃるような表情がとても印象的でした。
ピアノのコンサートでは、いわゆる「手が見える席」とは反対側のほうが音が良いので、いつもそのあたりの席をとって聴いています。
なので、ピアニストの表情も良く見えるのです。

雑誌のインタビュー記事で、ヨッフェさんは「座右の銘」として、「家族、音楽、友人を愛すること」と答えていらっしゃいました。
演奏に関することや、哲学的なことを挙げたピアニストが多い中でこの答え。
あの温かな音色や、穏やかな表情は、普段大切にしていらっしゃることがそのまま出ているのだなぁと、感じ入りました。


’10.4.16
〔ショパンのピアノ協奏曲〕

小山実稚恵さんのピアノ・曽我大介さん指揮・東京ニューシティ管弦楽団による、「ショパン・華麗なるコンチェルト」を聴いてきました。会場は、横浜みなとみらいホール(大ホール)です。
ショパンの「ピアノ協奏曲」2曲と「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」です。
「アンダンテ〜」は、ピアノソロで演奏されることがほとんどで、オーケストラ付きバージョンで聴ける機会はめったにありません。先週から少し体調を崩していたのですが、何としても聴きに行きたいと思っていました。

秋に「協奏曲第1番」を演奏することもあり、指揮者の動きやソリストとのタイミングの合わせ方を改めて見ておきたいと思い、ピアニストと指揮者のお顔が見える、右サイドの席を取りました。
横浜みなとみらい大ホールは、東京のサントリーホール同様、客席が舞台をぐるっと囲んでいます。
左右サイドの席は、舞台に迫り出すようになっているので、右サイドだとピアニストと指揮者のお顔が良く見えるのです。

「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、ピアノソロでも充分美しいと思いました。
オーケストラ付きのほうが響きは多彩になります、しかし、聴いた席のせいもあったのかもしれませんが、ポロネーズのリズムがあまり前に出てこないように感じました。

3曲を一度に弾くのは大変な重労働。
この手の「全曲演奏」的なコンサートは、演奏家も聴衆もマラソン大会のような雰囲気になりがちですが、決して勢いで飛ばさず、1曲1曲、一つ一つの楽章を丁寧に演奏される小山さんの演奏は、さすがだと思いました。

今日のコンサートは「みなとみらいアフタヌーンコンサート 2010年前期」のうちの一つだったのですが、この企画はとても興味深いと思いました。
コンサートは全て、平日の13:30開演・15:30終演。
「毎月一度のお楽しみ。最上のコンサートを中心に、人気のみなとみらいスポットでの贅沢な一日」・・・15:30終演なら、買い物や遊びの時間も十分ある。
「ポピュラーな曲目と一流のアーティスト」・・・この顔ぶれで文句を言う人はいない。
さらに
「5公演セット券 14,600円。1回行けない日があってもセットの方がお安いので、行けない日はご家族やお友達に差し上げてもまだお得です!」

何も高齢者だけをターゲットにしなくても、平日が休日というお仕事の人は少なくないわけですし、すごいアイデア・・・。
私は今日しか行ける日がなかったので1回券を購入しましたが、それでも4,000円。リサイタルや通常のオーケストラの定期演奏会よりも低料金です。
「後期はどんなラインナップなのだろう」と楽しみになってしまう素適なアイデアに敬服しました。


’10.4.7
〔大倉山水曜コンサート〕

第1213回・大倉山水曜コンサート「J.S.バッハ 平均律クラヴィア曲集第2集 リレーコンサート」の第1回目に出演させていただきました。

プログラム前半は、バッハ「平均律第2集」より No.1〜6の6曲。
後半は、演奏者自身による選択ということで、「水の音楽」と題して曲目を組みました。
バッハ「シチリアーノ(「フルートソナタNo.2」より。ウィルヘルム・ケンプ編曲)」に始まり、「平均律」に倣って書かれたといわれる、ショパン「24の前奏曲」より「No.15 雨だれ」、同じくショパンの「舟歌」、
続いてドビュッシーの「水の反映」と「沈める寺」。
昨年にリリースした2ndアルバム「ドビュッシー/沈める寺」収録曲を中心に演奏しました。

バッハの6曲は、私にとってかなりのプレッシャーでした。
「平均律」といえば、コンクールや音楽学校の入試では必ずと言って良いほど課せられる曲。クラシックのピアニストにとっては、子供の頃から練習しているおなじみの曲です。
コンクールや入学試験では、求められるある種の「型」がありますが、プロのコンサートとなると話は別。型通りの演奏が聴ければ良いと思うお客様は少ないはずです。

「J.S.バッハ 平均律クラヴィア曲集第2集 リレーコンサート(第1集・全24曲はすでに終了)」というコンサートの性質から、もともと「ピアニストの聴き比べ」的な楽しさがあります。
バッハの音楽は多様な個性を受け入れる(ジャズアレンジの演奏もすっかりおなじみ)反面、演奏者の内面を怖いほどくっきり浮かび上がらせます。
弾き方をすっかり決めているにもかかわらず、「どう思われるだろうか」「他の出演ピアニストと比べられる」と、コンクールでもないのに不安にとらわれてしまう自分・・・。
精神的な面で、とても鍛えられたように思います。

当日のお客様は、「ピアニスト・高橋希代子」を聴きにいらした方とは限らず、「バッハの平均律」を聴きにいらした方のほうが多いかもしれません。
実際に「ピアニストの聴き比べ」というスタンスの方も多いと思います。
普段のリサイタルとはまた違う雰囲気。
ある意味「自分の場」ではないところで自分のペースを作る必要があります。
とにもかくにも全力を尽くしました。

バッハで体力・精神力をすり減らしたのは予想通り。
普段より短い15分間の休憩で、後半のプログラムに向かって気持ちを切り替えました。
でも後半最初の曲「シチリアーノ」は集中力のキープが今ひとつで、反省しました。

では「バッハはもうこりごり・・・」と思ったかというと、全くそんなことはありません。
真剣に取り組めば取り組むほどバッハの音楽は奥が深く、「こういう表現もできるのでは?」とか、「今度はこう弾いてみたい」とか、いっそう興味がわいてくるのです。
何より、演奏者の内面を鏡のように映すバッハ作品を通して自分の音色や持っている感覚を再認識できたことが、一番嬉しかったことです。
今日のために改めて「対位法」を勉強しなおしたのも貴重なことでした。
昨年11月に聴きに行った、セルゲイ・シェプキンさんの「第2集全曲リサイタル」
そこで購入したCDをMP3に入れ、お守りのように聴いていました。
シェプキンさんの演奏もまた聴きたいです。

残念だったことが一つ。
会場のピアノ(ヤマハS6)のハンマーが消耗していて、芯の木の音が出てしまっていました。弾いた音が充分に伸びません。
先日、通し練習に行ったときも気になっていたのですが、やはり今日の調律・調整だけでは不十分とのこと。
早くメンテナナンスをしていただき、本来の音色を取り戻してもらえるように願っています。

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