’10.11.13
〔通し練習〕

11/28に「リサイタル at リラホール vol.5」を行う「藤沢リラホール」を借りて、通し練習をしてきました。
6年間、練習&記録用に使っていたビデオカメラが故障して直らなくなり、結局新しいものを購入したのですが、6年も経つともう、性能はもちろん、様々な部分の使い勝手が良くなる電化製品に感心。
今日の通し練習も録画しましたが、姿勢、腕や手の使い方と音色の関係を、かなり細かく確認することが出来ました。

今回のリサイタルは「夜想曲の世界」とサブタイトルをつけているので、ゆったりした気持ちで音に浸っていただくのがコンセプトです。
アンコール曲も含め、11曲を通して聴いて、もう少しテンポを速めようと感じたのは「エオリアン・ハープ」と「夜想曲 第13番」の2曲。
あとの9曲は、もう少しゆったり感がほしいと感じました。
本番が近づいて、焦りが出てきているのでしょうか・・・。
先月の協奏曲と違い、静かに響く音を追及したいプログラムですが、「夜想曲 第5番」と「13番」は、もっとのびのびと、怖がらずに音を鳴らして良いようです。


‘10.10.29/10.30
〔伴奏の仕事〕

関係者のみの会で、伴奏をさせていただきました。
2日とも、これまでに何度も出させていただいていて、慣れているはずの会。
緊張感の中でも、自信を持って進めていけるようにはなりましたが、
やるべきことをやるのに、とても神経を遣いました。
演奏後は頭がぼんやりしてしまいます。

こういう時、とても不安になります。
・・・著名な演奏家のスケジュールは、私とは比べものにならない。

連日のリサイタルや協奏曲も普通のこと。
それに引き換え、30分間「気楽な」伴奏を弾くだけで消耗するなんて、恥ずかしい、と・・・。

でも「演奏家にとって『気楽』な本番などない」と、思い直しました。
自分の求めるものが高くなればなるほど、本番で消耗するのは当たり前。
むしろ良い傾向ととらえ、人と比べる暇があったら、今の自分の本番をもっと大切にしようと。
そう思ううちに、自分の中で今回の音を反芻し、もっと良くしよう、次はこうしてみよう、と前向きな気持ちになってきました。


‘10.10.24
〔横須賀交響楽団との共演〕

50年以上の歴史を誇る横須賀のオーケストラ「横須賀交響楽団」さんの定期演奏会で、ショパンの「ピアノ協奏曲 第1番」を共演させていただきました。
ショパン生誕200年の今年は、ショパン・プログラムのリサイタルをしていますが、協奏曲もあわせて演奏できることを、とても幸せに思います。

・・・それにしても、今回はあまりにも、あまりにも自分を追い詰めすぎていました。
一番不安だったのは、「果たして自分の音は聴こえるのか」ということ。
よこすか芸術劇場大ホール、伴奏をやったことはありますが、ソロは初めてで、しかもオーケストラと一緒の「協奏曲」。
小規模なホールや、音響がとても良いホールで弾く時には、全く感じてこなかった不安です。
日頃コンプレックスを感じている「手が小さく、音が小さい」「底鳴りするような大音響を出せない」ことが、自分でコントロール出来ないくらい大きな不安となって、のしかかってきました。
どんなに弾き方の工夫をやりつくしても、ぬぐい切れない不安。

2つ目の不安は、横須賀交響楽団さん、指揮・音楽監督の石野雅樹さんとも初共演だったこと。
初めてご一緒する方とは、合わせの時からいっそう神経を遣いますが、それは何も今回に限らないことです。
なのに「音が小さい」コンプレックスが膨らみすぎて、神経過敏になっていたのでしょう。最初の合わせから帰ったあと、体中にじんましんが・・・
「高橋希代子を初めて聴くお客様も多いだろう」という新たなプレッシャーも、今思えば当たり前のこと。気にしすぎでした。

3つ目は、曲の特殊性。
ショパンの協奏曲は、曲名こそ「協奏曲」ですが、ピアノが華やかな技巧で前面に出て、オーケストラは終始伴奏に徹する形式で書かれています。
こんなに有名な曲なのに、「一風変わった曲」なのです。
ピアノという楽器が非常に発達した19世紀前半。それに伴って多くのピアニストたちが活躍、脚光を浴びるようになりました。
自作自演が当たり前だった当時のピアニストが自分を売り込むには、こういう協奏曲が最適だったのであり、ワルシャワからウィーンにデビューしようというショパンも、同様の協奏曲を書いたということになりますが・・・

ピアノが絶えず主導権を握って弾き続ける上、ショパン独特の半音階的な動きの連続。
暗譜も難しく、自分勝手なくせに「主導権を握る」とか「人を引っ張る」ことの下手な私にとっては、まさに試練の曲でした。
演奏活動の始まりが伴奏の仕事だった私は、「人に合わせる」ことには慣れているほうです。
協奏曲では、ただでさえその逆をしなければならないのに、よりによってショパンの協奏曲・・・

不安要素が多くて、音楽的にも精神的にもこんなに余裕のない自分にあきれながらも、どうにかやってこれたのは、やはり「弾かせていただけて有難い」という気持ちが、ずっと勝っていたからだと思います。
演奏の仕事は、「弾かされている」とか「弾いてやっている」という気持ちに襲われると、こんなに苦痛なことはありません。
スケジュールの調整が第一ですが、モチベーションを自分なりにうまく維持していく方法も、絶対に必要です。
今回は、「有難い」という気持ちが全く途切れることなく、準備を進めていくことが出来ました。
本番も幸運にも比較的落ち着いて弾くことが出来ました。

団の皆様やお客様から、お褒めの言葉を伺えてホッとしたのも束の間、
後日頂いたCDを聴いたら、第3楽章の装飾音の粒立ちがもう一つ・・・。
あんなに「通る音」を出すために全力を尽くしたのになぁ・・・。
それに、やはり「オーケストラに合わせている」感じだなぁ・・・。
でも気持ちはへこんでいません。
次はもっと良い演奏にしよう!と、改めて意欲が湧いてきました。


’10.9.25
〔宮川久美さんのベートーヴェン〕

竹林に囲まれた素適な空間、横須賀の「カスヤの森現代美術館」で開催されている、宮川久美さんの「ベートーヴェン ピアノソナタ連続全曲演奏会」を、
昨年に引き続き聴いてきました。
第5回目の今日は、「“可愛い”ベートーヴェンにフォーカス!」のタイトルで、
「第6番 ヘ長調」「第20番 ト長調(ピアノのお稽古でもおなじみ)」「第25番ト長調『かっこう』」「第10番 ト長調」「第22番 ヘ長調」の5曲。

聴くと元気が出る宮川さんのピアノですが、今回のタイトルもユニーク!
「ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会」は他にもありますが、32曲のソナタをどう振り分けるかは様々です。
きっちり1番から番号どおりに並べる他にも、同じ調性の曲をまとめたり、
「悲愴」や「月光」など通称付きの曲をまとめたり、などなど。
今日の曲のように比較的小規模な曲は、大きな曲の合間に演奏されることが多いと思いますが、あえてそれをせず、「可愛いベートーヴェン」としてまとめてしまったところが面白い!
どの曲も「宮川久美のベートーヴェン」を堪能できました。

「可愛い」と言っても、「第6番」や「第22番」の終楽章は、短くても大曲並みのテクニックが必要な曲です。
終演後の和やかなレセプションで、
「今朝さらっていたら、6番の終楽章が弾けなかった」と笑いながらおっしゃっていた宮川さん。
そこで焦らないところが、さすがだな・・・と思いながら、楽しいひと時を過ごしました。


’10.9.17
〔ザ・コンチェルト〕

ショパン「ピアノ協奏曲第1番」を聴ける公演を探して見つけた、このコンサート。
ピアノは外山啓介さん。現田茂夫さん指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団。
もう1曲、辻本玲さんのソロで、ドヴォルザーク「チェロ協奏曲」。
通常のオーケストラ公演では、協奏曲の演奏は1曲ですが、今日は2曲、それもピアノとチェロを聴けるコンサートです。

会場は約2000席の、東京芸術劇場大ホール。
なるべくステージから遠い席で聴いてみたかったので、一番上の3階席をとりました。
最初にオーケストラのみで演奏された、ドヴォルザーク「スラヴ舞曲 第1番」から、オーケストラの迫力ある響きを堪能できました。
協奏曲2曲もとても真摯な演奏で、ピアノの外山さんのクリアな音の美しさが、とても印象に残りました。

チェロの辻本さんがアンコールで演奏された、カザルスの「鳥の歌」。
トレモロの深く、かつ寂しげな響きに耳が引きつけられました。
辻本さんは来年の3月にデビューリサイタルを控えているそうで、
ラフマニノフの「チェロ・ソナタ」の他は意外にも、エルガー「愛の挨拶」やショパン「華麗なるポロネーズ」、ポッパー「ハンガリー狂詩曲」など、華やかな「小品」によるプログラム。
ピアノもそうですが、これら「小品」をセンス良く弾くのは難しいもの。
それをデビューリサイタルでこれだけ並べられるのはすごい! と思いました。

チェロに比べて「打楽器」であるピアノの方が、より音が聴こえやすいなぁなどと、いろいろなことを感じ、考えながら聴いていました。

・・・聴こえるとか、聴こえないとか・・・私は焦っているのかもしれません。
10月に、これまでで一番大きなホールで協奏曲を弾くことになり、「自分の音が届かないこと」、そして「音の小さいピアニスト」と言われることを恐れている・・・。

確かに、小ホールで弾くことを前提とした音作りでは物足りません。
だからこそ、粒立ち、より響く音作りに励み、それを会得してきたのではなかったか。

「協奏曲は経験がものを言う」と、どの演奏家も言います。
音作りに始まり、指揮者やオーケストラとのコミュニケーションの取り方なども、一度や二度で出来ることではありません。
練習はもちろん、実際のコンサートにも足を運んで、客席での聴こえ方を感じ取ります。

今年は本当に、精神力を鍛えさせられることばかりだな・・・
「人事を尽くして天命を待つ」が今の座右の銘ですが、一つの不安を勝手に膨らませ、「天命を待つ」心境になりきっていないことを反省しました。


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