’11.4.24
〔ヨコスカベイサイドポケットでの「ピアノ名曲コンサート vol.6」〕

「ピアノ名曲コンサート」もおかげさまで6回目。今年は「ソナタの名曲」です。
前半に「トルコ行進曲つきソナタ」と「月光ソナタ」。
後半に、ショパンとリストの名曲を演奏しました。
今回、日程も開演時刻も変更することなく予定通り開催でき、本当にありがたく思っています。


会場「ヨコスカ・ベイサイド・ポケット」のある横須賀市は、計画停電の実施地域に入っていました。
ホールも含め、建物に異常はなかったそうですが、停電してしまうとホールを使えません。
当日に停電があるのかどうか、振り回され続けることになりました。

停電があったとしても、予定は午後の「2回目の停電」。
しかも日曜日はずっと停電を回避できていたので、おそらく大丈夫だろうと思っていましたが、前日の午後にならないと確定しないとは・・・
これではコンサートやイベントは、予定を立てられません。
3月中、首都圏のコンサートは、ほとんど中止か延期。
4月のコンサートも、中止や延期になるものが少なくありませんでした。

先週16日に出演予定だった「ユニセフ・チャリティコンサート」は、主催者の方の判断で中止になりました。
今日のコンサートは、私自身が主催者です。
もしコンサートが3月中だったら延期を決めたと思いますが、4月末は微妙な時期。
延期したとしても、まだあまりにも先のことが見えない状況でしたので、その日が本当に大丈夫なのか、という問題も残ります。
ホールの方も、迅速かつ丁寧に相談に応じて下さり、結局延期せずに、このまま準備を進めることにしました。
震災の10日後、DMをお送りしたお客様全員に「日時変更せず開催予定」の旨、ご連絡ハガキを送付。
4月に入って、ホールを使えることが確定しましたので、「予定通り開催」の旨、さらにご連絡ハガキを送付しました。

「こんな時に音楽なんて、芸術なんて役に立たない」
・・・・携わる人は皆、こういう思いにさいなまれたのではないでしょうか。
「こういう時こそ、心に潤いが必要」
・・・・自分が被災していたら、芸術どころではなかったはず。だから、こんなこと言えません。
「芸術も含め、経済活動をどんどんして、復興に役立てる」
・・・・そう考えるしかありませんでした。


不運にも、震災の翌日がチケット発売日。
最悪の「原発レベル7」の政府発表。
相次ぐ余震に加え、携帯電話やテレビの「緊急地震速報」の音・・・
3月末頃から、新聞にも公演関係の記事が出るようになりましたが、自粛ムード、出づらい雰囲気は収まりません。
チケットの売上げも伸び悩みました。
まだ音楽どころではないお客様が多い事実の中、
「自粛せず、積極的に公演を行うべきだ」という内容の新聞記事を、すがるような思いで読んでいました。

演奏家は楽観的でなくてはやっていけないのに、被災地のニュースを見るたびに襲われる、後ろめたいような気持ちがぬぐいきれませんでした。

私は何が一番辛かったのか・・・
それは結局、「空席が目立つ会場で弾くことになったら、恥ずかしい」という気持ちだったのだと思います。
別に、空席があるとピアノを弾けないわけではありません。
「盛会でないことを人にどう思われるか不安」だったのだと思います。


今年で6回目の「名曲コンサート」。
一昨年のインフルエンザ騒ぎのようなこともあったとは言え、これまで何となく順調に開催できていた・・・
だから、毎回確実に成功させていきたかった・・・

今思うと、必要のないプレッシャー、つまらない見栄だったと痛感します。
これだけの大震災。延期をしないのなら、集客をあきらめるべきでした。
なのに、他の満席になっているコンサートが気になり、「震災を言い訳には出来ない」と、自分にムチ打つ日々・・・
「どんな情況でも良い演奏をしよう」と、気持ちを強く持って準備してきたのに、なぜあきらめられなかったのか・・・
それが一番悔しいし、残念です。

「震災で辛い目に遭っている人が、こんなにたくさんいる。
自分の苦しみなど、どうと言うことはない」
もちろんその通りです。
でも、もっと自分の辛さを認めてあげれば良かった、受け入れてあげれば良かったと思います。
その方が、早く気持ちを切り替えられたと思います。
自分に厳しくすることは大切ですが、「もっと苦しんでいる人がいる」など、人との比較でばかり考えていたのはまずかった・・・
次第に震災のニュース、被災地のニュースにイライラするようになっていきました。


・・・結局、ステージに立ってみたら、いつもよりお客様が少ないことは全く気になりませんでした。
いつも通り「来て下さってありがとうございます」という気持ちが、自然に湧いてきました。
あの不要なプレッシャーは、いったい何だったのだろうか・・・
本当にもったいなかったです。

終わってから「次回は何を弾こうかな」というワクワク感を感じられなかったのは、初めてでした。
このひと月半、自分で自分の神経をすり減らしてしまった・・・
1週間経って、次回への気持ちが戻ってきた時は、ホッとしました。


CDをお求め下さったお客様が、たくさんいらっしゃいました。
今回、チケットとCDの売上げの一部を被災地への義援金とすることにし、プログラムの挨拶文にもそう書きましたので、ご協力下さる方が多かったのだと思います。
横須賀市から中央共同募金会を通じて、募金させていただきました。

次回2012年は、ドビュッシー生誕150年の年。
お客様のアンケートには、「月の光」「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク」「沈める寺」などの有名曲以外にも、たくさんのリクエストを頂いています。
今回のことで、だいぶ気持ちが強くなりました。
仕事も人生も「山あり谷あり」。
谷にあっても、辺りを広く見渡して、登る道を見つけよう。
そして、谷の風景も楽しみながら進んでいこう、と思います。

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