2016.10.15 【シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル】

入院で終わってしまった夏を経て、少しずつ練習やレッスンを再開した頃、
地元のタウン誌で、巨匠シプリアン・カツァリスのリサイタル広告をたまたま目にしました。

会場は、隣市の藤沢市民会館。
カツァリスさんといえば、以前にFMで聴いたリサイタル「フランス・ピアノ音楽集」や、
NHKのレッスン番組での演奏が忘れられず、いつか聴きたいと思っていたピアニストです。

藤沢でリサイタルがあるとはびっくり。
出かけられる体調であることを祈りながら過ごし、いよいよ当日。
当日券で端ブロックの席に入場しました。

リサイタルは、なんと即興演奏で始まりました。
カツァリスさんは最近のリサイタルでは、遅れて来るお客様もいらっしゃることを配慮して、
冒頭に即興演奏を置いているのだそうです。

一瞬にしてホール内が、カツァリスさんの真珠のような軽やかで柔らかい音色で包まれました。

そしていよいよ本プログラム。前半はショパンを11曲。

ノクターン No.2・No.4・No.20(遺作)
ワルツ No.7・No.12・No.3
ポロネーズ No.1・No.3(軍隊ポロネーズ)
マズルカ No.45
幻想即興曲
子守歌

 

後半は、前日の浜離宮朝日ホールでの「親和力」と題されたリサイタルプログラムから、5組・13曲。
「親和力」はゲーテの小説のタイトルですが、 もとは、2つの化合物の反応度合いを示す化学用語だそうです。
文化背景や作曲家同士の関係まで、実に考え抜かれた曲目で、
カツァリスさんの自作曲や自編曲も含まれ、とても彩り豊かでした。

フォンタナ「マズルカ  ホ短調」
ショパン「マズルカ No.41」
シューマン「謝肉祭」より「ショパン」
カツァリス「ありがとう ショパン」
・・・フォンタナはショパンの同郷の友人。作品を聴いたのは初めてです。

ベートーヴェン「エグモント序曲」
メンデルスゾーン(リスト編)「ズライカ」
・・・どちらもゲーテ作品に端を発しています。

リスト「ハンガリー狂詩曲 No.13」
ヨハン・シュトラウス2世「ウィーン気質」
・・・どちらも当時の人気舞曲にインスピレーションを得ている曲。

ラヴェル「マ・メール・ロワ」より「パゴダの女王レドロネット」
中田喜直「ちいさい秋みつけた」
・・・極東の響き。

チェイシンズ「プレリュード 変ロ短調」
ラフマニノフ「プレリュード ニ長調」
カツァリス「さよなら ラフマニノフ」
・・・チェイシンズはラフマニノフの友人。

 

アンコールには、ショパンの「葬送行進曲(ソナタNo.2の第3楽章)」が演奏されました。
「体調が不安な時期に『葬送』はキツいなぁ…」と思ってしまいましたが、
カツァリスさんご自身が、演奏前にメモを見ながら日本語で、
「(今夏に亡くなった)中村紘子さんに捧げます。
演奏後の拍手はなさらないよう、お願いします。」
とお話し下さり、日本の聴衆への配慮を感じました。

 

カツァリスさんの演奏は、身体の動きにまったく無駄がなく、上半身はほとんど動いていないように見えます。
どこにも力みのない、完璧な脱力が、あの真珠のような音色を生み出しているのではないでしょうか。

しかも、これだけの曲数にもかかわらず、前半も後半も、ほぼ休みなく演奏されました。
驚異的な集中力です。

どの曲も見事でしたが、特にリストの「ハンガリー狂詩曲 No.13」、
「ハンガリー狂詩曲」の中でもどちらかというと地味な「No.13」が、
あんなに自由闊達に響くとは思いもよりませんでした。

15時開演で終演は17時半近く。
会場を出ると、暮れる間際の夕陽が、それは大きく鮮やかに映えていて、写真を撮っている人がたくさんいました。


リサイタルに来られて良かった、聴けて嬉しかったと、心底思いました。
やはり生のコンサートは良いですね。
また何か聴きに行きたいです。



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