【2018.9.28 若林顕セルフプロデュース ショパン全ピアノ作品シリーズ vol.3】
横浜市戸塚区民センターさくらプラザホール主催の、若林顕さんのリサイタルシリーズ。
昨年秋に開催された「ベートーヴェン:ピアノソナタ全曲演奏会シリーズ」にも出かけ、その豊潤な音楽に魅了されました。
また聴きたくて、楽しみにしていたリサイタルです。
「ショパンを巡る旅」と題されたこのシリーズ。
ショパンのピアノ作品全曲を、2018年5月から3年間・15回のリサイタルで網羅するそうです。
休憩なし・約80分のコンサートで、今日はその3回目。
「詩人が残した無言歌」というサブタイトルで、珍しい小品も含まれていました。
ロンド ハ短調 op.1
2つのワルツ op.69
ヘクサメロン変奏曲
フーガ イ短調
アルバムブラット(アルバムの一葉) ホ長調
変奏曲「パガニーニの思い出」
バラード第1番 op.23
(今日はこの後に、3分くらいの短い休憩がありました。)
ワルツ第5番 op.42
3つのマズルカ op.63
アンダンテ・スビアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22
アンコール曲:夜想曲 遺作 嬰ハ短調
一曲一曲のスケールがとても大きな若林さんの演奏。
一曲が一筆書きで描かれたように一つのまとまりとなって、聴き手に訴えかけてくるようです。
また、極限までコントロールされた左手の音がとても繊細で、
ショパンの美意識を彷彿(ほうふつ)とさせる響きが終始繰り広げられていました。
下手にマネをすると、響きが薄いだけの演奏になりかねませんので、まさに巨匠の技です。
現代の日本が誇るヴィルトゥオーゾピアニスト、巨匠の名にふさわしいピアニストだと、改めて感銘を受けました。
若林さんのような巨匠なら何も時間の短いリサイタルでなく、通常のリサイタルでも十分いけるのではないか、わざわさカジュアルにしなくても良いのではないかと思いましたが、
約2ヶ月おきに開催されるコンサートシリーズであることや、駅直結のホールというロケーションなどから見ると、ちょうど良い形態なのかもしれません。
料金も1回2,500円と、若林さんクラスの演奏家ではまずない設定で、5公演ずつのセット券は何と10,000円(1回当たり2,000円!)です。
人気の高いショパンを巨匠の演奏で、しかも低料金で聴けるという、お得感たっぷりの企画。
ホール主催公演の強みですが、聴く側の心をくすぐります。
入口で配られたプログラムには、昨年のベートーヴェンと同じく、曲目と若林さんのプロフィールだけが書かれていて、曲目解説のようなものはありませんでした。
若林さんが演奏前に、全曲目について10分くらいお話をされました。
今日のサブタイトル「詩人が残した無言歌」がどういう意味なのか、興味津々だったのですが、それについてのお話はなく、プログラムにも載っていなかったのが少し残念…
このような全曲演奏会シリーズは、各回のプログラム構成にも演奏者の狙いが出ますので、
その辺にも触れてもらえたら良かったです。
演奏はもちろんのこと、企画の面でもとても参考になり、勉強になりました。
さくらプラザホールでは、奥様でヴァイオリニストの鈴木理恵子さんとのデュオや室内楽のコンサートもたくさん開催されていますが、ことごとく行けない日で残念…
良い演奏を身近で聴ける機会は有難いことですので、めげずに今後のコンサート情報をチェックしていきたいと思います。
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【2018.8.21ー8.25 室内楽研究会】
昨年から参加している夏の室内楽研究会。
元桐朋学園大学教授の雨田(あまだ)のぶ子先生門下生有志の会「信友会」が、先生のご自宅で開催している会です。
今年も猛暑の中でしたが、調布市の仙川まで通いました。
先生の夫君・光弘先生は、日本フィルハーモニー交響楽団で活躍されたチェリストで、
「アマネコ」でおなじみの画家でもいらっしゃいます。
レッスン室はもちろん、廊下からお手洗いに至るまで、あの猫ちゃん達で飾られている、美術館さながらのお宅。
居るだけでも心が和んでいくのを感じました。
今年の課題曲はモーツァルト「ピアノトリオ 第5番 K.542」、またはブラームス「ピアノトリオ第1番 op.8」で、指定された楽章の中から選択して受講します。
私はモーツァルトの第2・第3楽章で申込みましたが、練習は思っていたよりずっと大変でした…
以前、別のコンサートで同じくモーツァルトの「クラリネット・ヴィオラ・ピアノのためのトリオ K.498『ケーゲルシュタット』」を演奏したことがありましたが、その時とは全く違う難しさでした。
「ケーゲルシュタット」は管楽器が入ることもあり、どの楽章も比較的横の流れが強く感じられる曲調です。
それに比べて「第5番」は、アーティキュレーション(区切り方)がより細やかで、様々なニュアンスが必要です。
そこがあいまいだと、何とも単調な演奏になってしまいます。
また、楽譜上の演奏指示がぐっと増えるベートーヴェン以降と違い、モーツァルトはテンポとf(フォルテ/強く)・p(ピアノ/弱く)くらいしか書かれていないので、いちいち演奏者が決めていかなければなりません。
よく「モーツァルトは自然に弾けば良い」というようなことを言われますが、自然に聴こえるためには技とセンスが必要、というのが実感です。
特に第2楽章が難しく、ちょっとでも音が雑になると、あっという間に音楽が崩れてしまう…
そんな怖さがありました。
怖いと身体もちぢこまり、なかなか納得のいく弾き方にならないまま、受講日になってしまいました。
初日は、午前中にのぶ子先生のグループレッスン。
のぶ子先生からは「相変わらず音が美しいけれど、もっと指先を固く使う音があっても良いかもね。」とのご指摘。
ワンパターンなタッチも、ニュアンスの乏しさの原因だったことに気づきました。
午後からチェロの光弘先生、ヴァイオリンの河村知里先生との合わせ。
第2楽章・ピアノが3連符で伴奏を弾く箇所について光弘先生から、
「3連符伴奏はメロディーが歌いやすくなるので、メロディーを歌わせたい時に使う。
なので、粒で合わせようとしない方が良い。」とのご指摘。
流れに任せて良いところを見失っていたことに気づき、膝を打つ思いでした。
さらに、「次に出る弦のパートを暗示するような弾き方にしたらどうだろう。」という難度の高いご指摘。
なるほど、お互いにそれが出来れば、美しい室内楽になりそうです。
背景を作るのがメインの伴奏とは違うと実感しました。
この日はもう一つ、大きな示唆を得られました。
のぶ子先生が不要になられた楽譜やCDを受講生達に下さったのですが、私がいただいてきた中に「NHKスーパーピアノレッスン 巨匠マリア・ジョアン・ピレシュのワークショップ」のテキストがありました。
そこにモーツァルトのピアノソナタについて、
「モーツァルトは、まるで手のひらを上に向けているような気持ちで演奏すると、軽い音になります。」というアドバイスが載っていました。
早速家で試してみると、軽やかな音色が楽に出せます。
音が軽くなると、こわばっていた頭もほぐれていくようで気持ちも楽になります。
「上体をリラックスさせ、自由に動くようにして脇に空間を作って弾くと、響きに広がりが出ます。」というアドバイスも、目からウロコでした。
脇は締めるのが基本ですが、少し空間を作ると本当に楽になります。
1日おいて、もう一度弦の先生方と合わせ。
「弾きやすいよ。」と言っていただけて、少し安心。
60分と短い時間ですが、細部の確認も出来、色々なアイデアも伺うことが出来ました。
強弱が不明な箇所をどうしようかとなった際、光弘先生から「あなたにはpの方が合っていると思う。」と言われたのですが、自分の持ち味を生かすヒントを与えていただけたように思います。
弦の先生方は、同じ曲を受講生一人一人の表現に合わせて弾いて下さっています。
のぶ子先生からも、「受講生に合わせてほしい」と言われているそうです。
以前に協奏曲を演奏する際、やはり「ソリストの意向に合わせる」と言って下さる指揮者もいらっしゃいました。
ですので、こちらがどう弾きたいのかが伝わる演奏をしないと、相手を困らせてしまいます。
ソロ以上にエネルギーが要ることを再認識しました。
最終日は発表コンサート。
コンサート後に光弘先生が「良かったよ」と言って下さったのが有り難かったです。
録音を聴くと、まだ音楽の固いところがあり、もっと自由な表現ができたらなと感じました。
均整がとれていて、かつのびのびとしている…
そんな演奏が出来るようになりたいです。
まだまだ改善の余地ありです。
この研究会では、他の方のレッスンや合わせも自由に聴くことが出来ます。
同じ曲でも人によってかなり異なるテンポや音色の作り方、フレーズの感じ方などを真近で聴けてましたし、なるほどと感心することもたくさんありました。
人の練習を聴ける機会はなかなかありませんので、とても有り難いです
来年の課題曲も早々に決まりました。
モーツァルトのピアノトリオ第7番(K.564)と、ベートーヴェンのピアノトリオ第7番「大公」。
どちらもとても勉強になりそうな曲で、両方弾けないのが残念なほどです。
ベートーヴェンはとても好きな作曲家ですが、今回苦労したモーツァルトをリベンジしたいな…という気持ちもあり、悩ましい…
両方練習して、ゆっくり楽しみながら考えることにします。
体調を整えて、来年も楽しみにしたいです。